J'adore -22ページ目

Prego6

深夜の1時。彼女は洗面所の鏡の前に立つ。その鏡には彼女の太股から上が映るような高さにしてある。鏡の上のブラケットのスイッチを入れて、今まで身につけていたブルーのキャミソールを脱いで傍らのキャスター付キャビネットの天板の上に軽くたたんで置く。鏡に映る自分の姿を確認しながら白地に赤い薔薇の模様の入ったブラを外して二つに折りたたんでキャミソールの上に重ねた。自分の乳房を手のひらで覆ってみる。丁度手のひらに入るくらいの大きさ。大きくもなく小さくもないが、わりと量感を感じると思う。日に焼けていないせいか蒼白いくらいに白い肌に静脈が透けている。

「もう少しアップしたいわね。」

横を向いて胸の形を確認して独り言を言って胸を持ち上げてみた。

右の手で髪をかきあげて首を後ろに反らしてみる。鎖骨の窪みと首の線とが微妙な陰影を映し出す。上腕にかすかについている筋肉が少し盛り上がる。右の腕の後ろ側のほくろを左手でなぞってみた。

「こんな所にほくろがあるのは知らなかったわ。」

そう、そのほくろは今夜彼がみつけた。その小さな黒い点を彼に触れられた余韻が残っているような気がしてくすぐったい。

しばらくそうして自分を確認した後、彼女は最後の下着を取ると体を半回転させて背中越しに自分の姿を見てみる。背中に小さな筋。彼のイタズラ?それは右の肩甲骨の下にわからないように赤いライン。その線も左手でたどる。その左手でウエストのくびれから腰のラインをなぞる。今夜は気持ちよかった、かもしれない。鏡の前の彼女は自分でも惹きこまれそうなくらいのけだるい微笑を浮かべているから。

鏡の横のキャビネットから歯磨き粉と電動歯ブラシを取り出して裸のままで3分磨いた。その間も彼女は鏡に映る自分の体を確認している。

彼女は歯磨きが終わると薄い白のTシャツとショーツだけを身につけた。室内履きをひっかけて冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。椅子に膝を立てて座り瓶のまま一口飲んだ。

いつもと同じ一日の終わり。自分は変わりないと彼女は確信した。

ボウモアの誘惑

彼女は今飲んでいるシェリーが甘すぎて、力強くビートの効いたスコッチが飲みたくなる。

 

「マスター、ボウモアあるかしら?」

 

「ありますがボトル売りになります。」

 

「どうしようかな?キープは好きじゃないのよね。」

 

「ボウモアってどんな味?スコッチだよね。」

 

彼が、マスターに聞いた。

 

「飲んだことなかったのですね。じゃ、ほんとはいけないけどお客さんのボトルから少しだけ拝借。」

 

そう言って、マスターはストレートグラスに少しだけボウモア25年キングスバリーを注ぐ。

 

「まずは香を味わって、その後で飲んでください。彼女からどうぞ。」

 

色はやや淡い琥珀色。香りはグラスに注いだ瞬間から華やかな香りが辺り一面に広がる。柔らかなヨード香にも包まれた素晴らしい香り。

 

「なんともいえない不思議な香だわ。」

 

彼女は久しぶりに飲むボウモアの香を何回も確認した。

 

「味は香を裏切る甘さと上品さがありますよ。」

 

一口飲んでみる。味わいは非常にこくがあり重厚。フィニッシュは芳しいヨード香が実にさわやかで華やかさも加って素晴しい。

 

「あなたもどうぞ。きっと驚くわ。」彼女の瞳が輝いた。

 

彼にグラスを渡して、反応を楽しみに待つ。

 

「ほんとだ。とても上品で甘くてバランスがいい。香りは味を裏切って面白いね。マスター、ボトルキープするよ。今夜はこれを飲もう。」

 

「わたしたちの久しぶりの再会を祝して。」

 

「こうやって二人で飲むのは初めてだね。君はいつも誰かといたからさ。」

 

「そうだったかしら?」

 

「もしも君が一人でここにいたのを見かけたら、間違いなく僕はくどいていた。」

 

「それじゃ、今はくどかないの?有効期限は切れたのかしら?」

 

「そんなことはない。今のほうがきれいだと思うよ。そしてバランスがいい女になっている。」

 

「もうくどいているのね。」

 

彼女はボウモアの入ったロックグラスを右手で持って眺めるポーズをした。

 

「アイラ島の海の香がするような気がする。かもめのように自由に飛べそうだわ。」

 

「自由に愛し合おうよ。僕でよかったら。」

 

「今夜はボウモアに誘惑されたことにするわ。」

 

「ボウモアに乾杯。」

 

二人は小さい音を立ててグラスを合わせた。

 

「わたしたち恋をするのね、これから。」

 

「君の香は僕を裏切るのかな?確かめてみたいよ。楽しみだ。」

 

「ボウモアのように裏切ったら?」

 

「素晴しい裏切りだ。」

 

彼は彼女の右手の人差し指をそっと握った。『ほんとの君を教えて』という彼のメッセージを彼女は感じていた。

 


彼女に2度恋をした

「ほんとは、僕が探してたのは君じゃなかったんだ。」
彼が思い出したように、少し笑いながら言う。
「何?どういうこと。」
「僕は紺色のルノーサンクに乗っている彼女に恋をした。そして、君も同じルノーに乗っている。だけど、僕が恋していたのは君じゃなかった。いろんな要素が君とは違うんだ。彼女は海岸のそばに住んでいるらしく、海岸端の細い道からルノーで出てくるのをよくみかけた。髪は君よりショートだったし、服装もタイプが違うんだ。」
「そうなんだ。そういうことがあったから、彼女だと思って、あの日レストランで帰り際に急にわたしを誘ったのね。」
「そう。ルノーと後姿で君だと思った。」
「おいしいワインが手に入ったんですけど一緒にどうですかって誘ったのよね。」
「うん。それは事実だったから。アイスワインのおいしいものが数日後に届くことになっていた。そして君と飲もうと思ったんだ。いやだったかい?」
「いいえ。アイスワインは大好きだから面白いと思ったわ。」
「そして君はフランスパンとチーズを持って僕の部屋にやってきた。」
「で、今わたしはあなたの腕の中よ。裸で。やっぱり、その彼女はわたしではないと思ったんだ。」
「君と彼女は違うよ。でも、今は彼女よりも君が好きさ。」
彼は腕の中の彼女の胸に優しくキスをする。彼女は彼の背中に腕を回し、少し背中を反らしひざを立てる。彼を自分の中に迎えるために。

本当は、彼女は彼の一目ぼれした彼女だった。彼女は確かに何年か前に海岸端にすんでいたし、髪は肩につくかつかないかだった。服装もフレンチカジュアルを好んで着ていたし、何よりも彼の乗っている白いプジョーとはよく会うことに気がついていた。
でも彼女は彼に本当のことは言わない。彼には悪いけど二回も恋してもらったなんてステキなことじゃない、と思う。叶わなかった恋として思い出の中できらめく女でいられるなんていい。いつまでも輝けるんだもの。

「ワインのいい香がするよ。」
「もっと好きになって。もっと」
「君の秘密をたくさん教えてくれたら好きになるよ。」
「それはどういうことかしら?たとえばどこをどうすれば気持ちいいいとか、感じるとか?それともスパゲッティにはタバスコを20回以上ふりかけることとか?」
「どちらも教えてほしいね。とりあえず今は前者の答えがほしいよ。どうしてほしい?」
「今夜は教えない。あなたが発見して。」
彼は彼女の秘密を、今夜いくつ知ることができるだろうかと、まるでトランプゲームの前のこどものようにワクワクしている自分がおかしかった。確かに今ゲームは進行している。アイスワインのように甘くとろけるようなゲームだ。


Flying


封筒を開くと東京行きのAir Ticketが入っていた。裏返すと、やはり彼の名前がある。

3日前、突然に昔付き合っていた彼から電話があった。
「5年ぶりだね。時間があったらこっちへ出てこないか?会おう。」
「わたしは変わってしまってるかもしれないわ。」
「お互い様だ。でも、僕が好きになった君だから想像どおりのいい女になっていると思うよ。どう?結婚はした?」
「相変わらずシングルよ。結婚には向かないタイプだと思われるみたい。」
「そういう女(ひと)もいていいよ。今、幸せ?」
「今は。。。。。。。」
彼女は即座に幸せだとは言えない。なぜなら、ちょっと前に恋をあきらめる決意をしたばかりだから。
「やっぱり会いたいよ。会おう。また一緒に、あのホテルでマティーニでも飲もう。」
「考えておきます。」
「来週の週末に会おう。チケット送るよ。もし来れないんだったら捨ててくれていい。」

「彼との恋はまだ続いていたのかしら?」
そういえば、二人の交流は自然にフェィドアウトしてしまって『さよなら』は言ってない。
「今会っても続きからは始められないし、彼ともう一度恋することもできない。」
彼女は彼からのチケットを引き出しにしまった。東京には行かないと思う。彼にはたぶんこれからも会わない。
目を閉じて空港に着く所を想像する。彼はゲートの所まで迎えに来てくれるだろう。でも、彼女はうれしい表情はしていないと思う。なぜなら、彼女が迎えに来てほしいと思うのは違う男(ひと)だから。

彼女は、風の強い午後の街を音楽を聞きながら歩く。
SADEの『Love is Stronger than Pride』

人生の終わりだなんてふりはできない
すぐに許せるなんてふりもできない
何とか嫌いになろうとしたわ
でもそれもできなかった

いまもそれは、それは愛してるの
プライドなんてどうでもいい
今も心から愛しているの……

いまもそれは、それは愛してるの
プライドなんてどうでもいい
今も心から愛しているの
何て大きな愛なの
今も心から愛しているの
もうプライドなんてどうでもいい……
(サードアルバム『Stronger than Pride』の歌詞カードより引用)


いまもそれは、それは愛してるの
プライドなんてどうでもいい
今も心から愛しているの……


「あなたのことをまだ愛している。でも、あなたにわたしは必要ではない。」
風は一層強くなった。

恋する勇気


恋を始めるってきっかけが必要。
なんとなく自分でも気がついてはいても、いろんな理由をつけては否定しようとしてしまう。
恋が成就するまでは弱虫になってしまいがち。
何気なく街を歩いていても、いろんなときめきを空に花に空気にさえも感じる。
それは、これから起こる何かを予感しているから。

そんなわたしを勇気づけてくれる曲。
これを聞きながら風の強い街を歩いてみたい。そうすると、きっと恋する勇気が生まれるかも?
ぜひ、試聴してください。
一番下にある冨田ラボのサイトに行くと最初に流れるのが

Like A Queen feat SOULHEAD

作詞は吉田美奈子、作曲は冨田恵一です。

冨田ラボのサイトです。

http://www.tomitalab.com/

さくら咲く前にNA・MI・DA2


「ボウモアのロック。シングルで」
彼女がこのバーでバーボンを飲むのは久しぶりだ。
マスターはナイフで削った丸い氷をロックグラスに入れる。棚からかもめの絵がついたボウモアのボトルを下ろしてグラスに注ぐ。それはシングルの量ではなくダブル?
「マスター、多いよ。わたし最近お酒に弱い。」
「これがあなたのシングルの量だから大丈夫。」
彼女は多いと言いながら、楽しそうに受け取る。そう、いつもこのバーの人たちは優しい。だから、こうやっていつでもおいしいお酒が飲める。

ある日、彼女は賭けをした。もしも今日の真夜中12時までに彼からの連絡がなかったら彼を忘れようと。残念ながら?予想を裏切って、彼からの電話。
「久しぶりに会わないか。そろそろ桜が咲く。一緒に見に行こう。」
「思いっきり華やかに散る頃がいいわ。二人で桜が散るのを見ながらお酒を飲みたい。」
「どこがいい?」
「古い旅館がいい。川のせせらぎが聞こえて、窓を開けると桜の花びらが入ってくるの。」
「いいね。温泉に入って日本酒の熱燗でも飲もう。」
「わたし日本酒は弱いわ。」
「桜色になった君を抱きたいよ。」
「桜の香の中で」
「艶っぽいね、その情景。」
結局、彼女は彼と会う約束をしてしまった。なんてずるい奴。タイミングがよすぎるの。でも心はウラハラ。彼女も、その情景を思ってときめきを感じていた。

本当ならこの恋をstopしたい。彼はわたしを決して愛してはくれない。たぶん、ちょとした気まぐれ。
「さくらが散ったら終わるのね。」
桜の花びらと共に自分の恋も終わらそうと決心する。桜のように華やかに散る恋もいい。
「マスター、ギムレットをお願い。」
翡翠色のギムレットに今夜の決意を誓う。今度こそ、最後。わたしの恋の終わりに乾杯。

Prego5


彼女はふと、少し暑い日差しの中、歩いて待ち合わせの喫茶店まで行ってみようかと思う。夏なのにあまりにも白すぎて不健康なように見えてしまうのが最近気になっている。少しだけ日焼けするのがいいかもしれない。
クローゼットの中からフレンチスリーブで襟ぐりが大きく開いた白いTシャツを選ぶ。ボトムはカーキ色のワイドなパンツ。パンツのセンターは紐で結ぶようになっている
鏡の前に立ってみると、妙に腕が白すぎて寂しかった。ハートのバカラのペンダントをしてみたけれど、もう少し何かがほしい。
キャビネットの上の時計ケースを覗いて、『Swatch スクーバ シーグレープス』を腕につけてみた。明るいオレンジの上に白、ピンク、紫の水玉がかわいい。それをつけただけで少し元気に見える。素足に『NONAME』のFLYER SARDANEを履く。バレエシューズ風のデザインで、足に巻きつけるシューレースを施したキュートな靴。

「そういえば。。。。」彼女はSwatchを見て思い出した。
これは、ある男(ひと)が彼女が初めてダイビングをしに行くときにプレゼントしてくれた時計。

「これ沖縄に行くときにしていって。」
彼がうれしそうに彼女の腕にはめてくれた。彼女はそのとき初めてSwatchを知ったけど、第一印象は『何これ?おもちゃ?』だけど、意外に『 スクーバ シーグレープス』は彼女によく似合っていると言われた。
それから、気に入ったデザインが出ると買うようになっていたっけ。
彼はいつもわたしに元気をプレゼントしてくれていた。いつのまにか、Swatchは彼女になじんでいる。
「あの男(ひと)どうしているかしら?」
彼女はSwatchをプレゼントしてくれた彼と裸のままで鏡の前に立ち、日に焼けた肌と自分の白い肌がまるでオセロの白と黒のようだね、と言って笑ったことを思い出していた。


Swatchをくれた男でない彼が待っている待ち合わせの場所に行く。
「今日はいつもと違う感じがする。」
まだ彼はパンツスタイルの彼女をあまり知らない。『Swatch』をしている彼女も初めて見る。
「そうだった?こういうスタイルは似あわない?」
「そんなことないよ。新鮮でいい。君の若さが引き立つ。」
そう言って彼は彼女を眩しそうにみつめた。日に焼けてないなめらかな肌に触れてみたい。彼女が目を閉じて、シーツの上に横たわっているのを見たいと思う。その肌は冷たいのだろうか、確かめたい。

「今度旅行に連れて行って。1泊だけでいいの。」
「8月の真ん中あたりだったら大丈夫だよ。」
「楽しみだわ。」
彼は突然の彼女のリクエストに驚きながらも、当然のように約束が成立するのを快く思う。
「今日もきれいだよ。だから好きだ。」
彼は突然そんな風に彼女に告白する。
「ありがとう。」
まっすぐにみつめる彼と目が合った。予想しなかった恋が始まるかもしれない。




忘れて。


「覚えていなくてもいいから、たまに思い出してほしい。」
彼女はガーターストッキングに脚を入れて、足首から太ももにゆっくりと引き上げながらささやいた。紫色のガーターベルトにストッキングをとめる。黒にバラの柄のプリントで黒いレースをあしらったキャミソール姿でソファーに腰掛ける。ベッドに横になってタバコをくゆらす彼のほうは見ない。
「思い出すだけでいいの?また会わない?」
「約束はしたくないわ。期待すると悲しいでしょ。」
「そんな姿、また見たいよ。」
彼女はラベンダーカラーのワンピースに腕を通して彼の横に座る。
「背中のファスナー上げてもらえるかしら?」
長い髪を右手で上げて背中を向ける。
彼はたばこをベッドサイドの灰皿に置いて、背中のファスナーをゆっくりと上げた。セクシーな黒いキャミソールとラベンダーカラーの対比が艶っぽい。
そのワンピースは広い目に襟ぐりが開き、ハイウエストで切り替えがあり体にフィットするものだった。彼女の体のラインをより美しく見せている。
「このネックレスのホックも止めてもらっていいかな?」
「いいよ。」
彼女は彼にテーブルの上にあった真珠のネックレスを渡す。
彼は細い首にネックレスを回してホックを止める。手が彼女の鎖骨に触れて、その窪みにそって人差し指を這わした。
「きっと思い出すよ、この感触。」
「指で記憶しておいてね。そのほかは忘れて。」
そう言って、彼女はブルネラ色の長いスカーフを首に巻いた。
彼女は暑い午後の街へ戻ろうとしている。

さくら咲く前にNA・MI・DA


「元気?今何してる?」
真夜中の電話。男友達からだ。彼の周りに人を感じる。いつものバーからだろうか?電話を通して、彼の好きなバーボンの香がする。
「元気と言いたいけど、そうでもないわ。ちょっとだけ泣いてた。」
彼女は本当にさっき一粒だけの小さい涙を流していた。テレビを見て笑った後、不意に涙が頬を伝わるのを感じた。
「珍しいな~。悲しいことあった?」
「正確にはまだ何も起こってはいない。でも、それはきっと現実になることを確信したら悲しくなった。」
「男と別れる?」
「違うの。付き合ってると言えないかもしれないから別れるというわけではない。失恋に近い感じ。」
「付き合ってないということはsexはまだしてない?」
「それもNO。sexはしたけど、playすることと付き合うのは別。」
「好きでいるのをやめる?」
「やめようと思ってる。冷静に判断して、彼はわたしのことは好きではないと思うから。キライではないとも思うけど、わたしは彼の大切な人ではありえない。」
「そう思うならやめたほうがいいよ。こっちへ来ないか?一緒に飲もう。君の好きな『ボウモア』をおろそう。」
「やめておく。悲しいときに大好きなバーボンは飲みたくないの。『ボウモア』を飲むときに思い出すのは楽しいことだけにしておきたいでしょ。」
「残念だけど、今夜はあきらめるよ。もうすぐ桜が咲く。夜桜の帰りに飲もう。」
「それは賛成。桜の花が咲く前に思いっきり涙流しておくわ。桜の前では微笑みたいでしょ。」
「凛とした君らしい意見だ。」
「わたしに電話してくれてありがとう。あなたが電話くれなかったら、もっと涙を流していたかもしれない。泣いてしまうと次の朝、顔が変だから困るの。」
「もっと泣きたかったら、僕がそばにいてあげるよ。」
「だめ。そういうのは難しい。」
「そうだろうね、君は。桜が咲き始めたらまた電話するよ。」
「そうして。おやすみなさい。」
彼は優しい。彼女がつらいとき、なぜかタイミングよく電話をくれたり、偶然出会ったりする。でも、彼とは友達でいようと決めている。そのほうがお互いにいいはず?

昨日見かけた桜並木は、遠くから見るとうっすらと紫色を帯びていた。もうすぐつぼみが膨らむ。桜の花が開く前に、今の恋を早くstopしなくてはいけない。可能性のない実験は自分の趣味ではないと彼女は自分に言い聞かせた。

Prego4


「秘密って言葉大好き。」
彼の腕の中で彼女がつぶやく。
「だから全てを教えないでね。」
彼女の胸の上にある彼の手をほどいて、向かい合う。
「知らないことが多いと、いつ会っても新しいあなたに会えるわ。今日も発見したの。あなたって耳をかまれると、とっても気持ちよさそうな表情になる。」
「確かに。君がしてくれると特に気持ちいい。」
彼女は彼をみつめながら、彼の右の耳を優しくかんで舌先でなめる。
「どう?いい感じ?」
「うん、感じるよ。今夜は僕も発見したよ。君は僕の上になってるときのほうが気持よさそうだ。違う?」
そう言うと、彼は彼女の右腕をつかみ、自分と彼女の上下の位置を逆にする。
「これからどうしようかしら?あなたを自由にしてもいいの?」
彼女は彼の胸の間にあごを置いて、自分の体をぴったりと彼の上半身に添わせて笑う。彼女のあごの先が触れるくすぐったさで彼も一緒に笑う。
「君の好きなように動けばいいさ。気持ちよさそうな君を見てるのもいい。」
「ベッドサイドのランプは消すわね。フットランプだけにするの。」
そう言ってすぐに彼の上半身から離れて窓際に向かい、カーテンを全開にした。街の灯りが後ろから彼女の白い裸体をほのかに照らす。ウエストから腰のくびれが美しい。歩くとき足首にできる筋がセクシーだ。
彼女はソファに腰かけて背中を少し反らして、半分だけ彼を振り返る。
「わたしたちを窓のガラスに映すの。そうすると、まるで空中でSEXしてるように見える。」
「浮いてる感じ?」
「そう、たぶん心も体も。」
彼女は脚を開いて彼の上になり、彼の肩をつかみ上半身を起こして彼に抱っこされるような格好を取る。
「こういうのも好き。」
「わかった。覚えておこう。他にリクエストは?」
「考えておくわ。」
「楽しみにしてるよ。だけど、僕に無理でないものにしてくれ。」

窓ガラスに映る二人は、本当にネオンの中で浮いているように見えた。あるいは、きらめく波の上でゆらいでいるようにも見えるのだった。