ロータスの香る夜には1
彼女は、一人でいる感覚に戻っていた。
薄いシフォンの白いカーテンが、微かな風で揺れている夏の午後。
向かい側のビルの窓が強い日差しを浴びて光っている。
ベッドから降りて、窓際のソファーに座って飲みかけの生ぬるいペリエを一口飲んでみた。
気の抜けた間抜けな味の炭酸は、水よりもキライだと少し腹が立った。
「どうしようかな」とつぶやいた。
バッグの中から、ロータスの香のボディバターの入った小さなケースを取り出して、裸の胸から首、腕へと塗る。
神秘的な甘い香に、水の中の白い蓮の花が、時間が経つとなまめかしいピンク色に変化していくのを思い出した。
ベッドでうつぶせに眠ったままの彼を残して、彼女の時間の計画を始めつつ、快いだるさを楽しんでいる。
「sexの後の肌の色って、きれいだよね」
今まで眠っていたかと思っていた彼が、寝たままで顔を彼女のほうに向けて言う。
二人は昨夜、ワインをしこたま飲んで、このホテルに帰ってきた。
美味しいジェノベーゼのパスタと、タコのマリネ、ビールの風味のチーズが、あまりにも幸せなマリアージュで、冷えた赤ワインに合っていた。
だから飲みすぎた。
シャワーだけ勢いよく浴びて、タオルで身体をふくのもそこそこに、倒れるように別々のベッドで二人は眠った。
朝、太陽が輝いているのを確認して、彼はとても彼女と交わりたくなる。
「朝から君がほしくなった。」
日に焼けた腕を彼女の腰に廻して、彼女の耳に唇を這わす。
長いまつげを閉じて、眠っているかのようだった彼女は、彼の唇がくすぐったくて笑う。
「お水が飲みたい」
彼女のリクエストに答えて、冷蔵庫からペリエのきれいなグリーン色のボトルを出して、彼女に渡す。
ゴクゴク飲む彼女の白い首の喉仏がなまめかしい何かを感じる。
「ねえ」
彼女がベッドで手を大きく広げて、彼に笑いかけた。
「僕を誘ってるの?」
「あなたを誘惑してるの」
「したい?」
「あなたが考えているのと同じことをしたい」
「そんないやらしいこと?」
「みだらなこと」
彼女は、彼の手を取って彼を自分の上に重ねた。
エアコンの風で冷えた彼の身体が心地よい。
「この手、大好き。」
小麦色を通り越して、チョコレート色に近くなった彼の手の乾いた感触を楽しむ。
彼の背中の筋肉の硬さが、柔らかい彼女の肌に沈んでいく。
「溶けそうなくらいに愛して」
彼女の蓮の花が、ゆっくりと開こうとしていた。