ヒラク
「あなたはトーストに、何枚きりを選ぶ?」
彼女は突然、フライドポテトを食べている彼に聞く。
ビネガーと塩のほどよくかかったポテトをつまんだまま、彼は考えた。
「6枚切りだね。」
「よかった。」
彼女は瞳を輝かせて笑う。
「わたし安心したわ。
4枚切りが好きだ、なんて言われたらどうしようかと思ったの。
わたしは8枚切りのパンをかりかりに焼いて小麦色にして、
そのままなんにもつけないでかじるのが好き。
トーストはふわふわでないほうがいい。
だから、あなたは合格点。あなたとなら、たぶん合う。」
二人は今夜が初めてのデートらしいデートで、NYから来たというテナーサックスのバンドのLIVEを聞きに来た。
彼はグラフィックデザイナーで、今夜も急ぎの仕事で待ち合わせの時間に遅れた。
彼女は先にテーブルに座っていて、ジンライムを飲みながら演奏に浸っていた。
「どこにいても何をしても彼女だ。」
何かの映画の中で、恋愛をしている女性のシーンが彼女と重なる。
「こんばんは。」
彼女の優しいアルトの声が、彼には心地よい。
「合格だ。」
そのとき、彼は心の中でつぶやいていた。
だから、彼女から同じ言葉を聞くとはなあ。
彼女をみつめた。
「何かさっき笑ってたでしょ?気になる。」
「今度8枚切りのトーストを一緒に食べようか?」
「意味深ね。でも、トーストなら朝食べたい。」
二人の心の中で、恋がヒラク。
二人の恋のstoryは今からヒラク。