maja
「美しい人」
一色はカオリに触れながらつぶやいていた。
そう、彼女は強く美しい。
横たわる彼女の腰からウエストにかけたくびれたラインが淡い影となって彼の記憶に輝く。
一色はカオリとのひとときを思い出していた。
夏の午後、シードルの瓶をテーブルに10本ほど並べて
「ちっとも酔わないわね。」と言って、二人で笑った。
「酔うわけないさ。アルコール7%くらいだもんな。カオリさんには水だよ。」
それでも、dryのシードルをおいしそうに飲む彼女の笑顔がかわいかった。
ベランダのデッキチエアーに素足で腰掛けて、足をバタバタさせながら楽しそうに笑う。
そんなカオリを、本当は愛していた自分。
それなのに、なぜ別れた?
彼女には彼女の時間があると知ったとき、それを大切にしてあげたいと思ったから。
いや、それはきれいごとだろう。
彼女を取り巻く環境と人間と対等に付き合う自信がなかったんだ。
カオリが悲しそうな表情をするとき、解決する術を持たない自分がいた。
そんなとき、聞かないふり、見ないふりをしながら心は痛んでいた。
maja
今でもカオリは一色にとっては「美しい人」