52 なつかしい指2
二人は、これから夏を迎えようとしている山の緑のグラデーションを感じながら、同時に若々しい木立の香を確かめていた。
針葉樹から発生している凛とした香が、アユミに元気を与えている。
こうやって徳永と山の道を、ただ黙って走る時間が好きだ。
アユミはふと、徳永がギアーを握る右手に自分の手を重ねた。
「どうしたの?珍しい。」
「確かめたかったの。あなたがわたしのそばにいるってこと。」
そう言いながら、徳永の小指から薬指、中指と、一本ずつ、自分の人差し指でなぞる。
「あなたの指を3日前、見たの。指でわかったわ、あなただってね。」
「なぜ声かけてくれなかったの?」
「女の人と一緒だったわ。あなたにはあなたの時間があるもの。わたしにもわたしの時間だったし。」
「そう。」
アユミは徳永の顔は見ない。
そんな彼女の左手首を強く握った。
「たぶん、君以上に人を好きになれないよ。アユミが好きだ。」
素直にうなずけない。
何かが妨げていた。
彼の指の温かさとたくましさを信じたいのに、恐れていた。