48 空に散る思い | J'adore

48 空に散る思い

hanabi


そんなにも暑くない夜だとカオリは思いながら、ただ真っ直ぐに港へ向かった。


珍しく一人で歩いている。


手には真っ赤なうちわを持って、素足にウェッジソールをひっかけて、アーミー柄のTシャツ。


ヒップラインを美しく見せるシフォン素材のラップスカート。


自分の部屋から、花火を見たくて一人で歩いてきた。


道には人が溢れていた。


家族連れ、恋人同士、友達グループ。


みんな誰かと笑いながら、空を見上げている。


花火が空を行きかうたびに歓声が上がった。


「わたしはここで何をしているのかしら?」


ダンスを踊るように空を舞うスペインの花火を見ながら気がつく。


一人でいるのが寂しいのではない。


二人でいるよりも、平和でいられるという今の恋が不安すぎる。


金色の火花が舞い落ちるように、思い出も散らそう。


空を見上げた。


海からの風が吹いている。


「来年も一緒に見に来ようね。」


隣の二人がシアワセそうに言った。


来年のことなんてわからないわよ。


カオリはちょっとイジワルな自分が嫌い。


そのときカオリの携帯が振動する。


高見からだった。


「今、一人で花火を見てるわ。あなたは?」


「俺も見てる。」


「一人で?」


「車から見てる。」


うそ・・・・・・。


「今から会える?」


「会わない。」


カオリはもう決めている。


花火のように、散ってしまう思い出はいらないから作らない。