45 夏の恋人12=恋する香
桧垣とゆったりとした朝を過ごし、自分の部屋に戻った。
いつもの部屋の白い壁とシンプルな木のダイニングテーブル。
きれいに片付けられたキッチン。
とても落ち着いた。
それなのに、自分の何かが欠けていると感じるのが不思議。
カップボードから白いティーカップを出して、カモミールティーを入れる。
薄い金色とアップルにも似た優しい香が広がる。
小さなため息をついて、レースのカーテンを開いて庭をみつめた。
夏の終わりを告げるようなセミの悲しい鳴き声が聞こえる。
イランイランのアロマオイルをランプの上の小さな白い皿に4,5滴たらした。
部屋の中に広がる熱帯の甘い花の香。
このアロマは恋する勇気をくれるのだという。
ただ、使いすぎると効果がなくなる。
だからカオリも、たまにしか使わない。
魔法はめったに使わないのが『いい魔女』だから?
今は魔法を使いたい。
自分がワクワクするような、恋がしたいと思っているから。
イランイランの香の魔法で、きっときっと夏の終わりに恋を手に入れる。
「あなたが好き」
目を閉じて、桧垣のことを思った。
恋する魔法は成功しつつある。
カオリは、自分の口元が微笑んでいるのを確信した。