44 夏の恋人11=ベルガモットは別れの香
朝のマーマレードはカオリをシアワセに変えた。
アールグレイの紅茶が、思いもかけずに上手においしく入ったことに感動した。
きれいなオレンジの液体が、自分の口の中いっぱいに広がって
ベルガモットの香が、まだ残っていた恋の未練を断ち切るかのよう喉の奥から胸に広がる。
よく焼かれているトーストにたっぷりとマーマレードを乗せてゆっくりと味わう。
白いカップの中の紅茶のオレンジ色はなん美しいんだろう。
透明感のあるオレンジの液体の美しさを改めて知る。
最後までストレートで4杯もおかわりをした。
朝の時間をこうやってゆったりと過ごすのは何年ぶりかしら?
桧垣とならば、素顔で髪も少し乱れて、裸にバスローブをはおり裸足で、こうやっててもなんだか自然なのだ。
「わたし決心したわ。」
「何を?」
「マーマレードを好きになる。」
「嫌いだったの?」
「正直あんまり好きでなかったけど、心から好きになりそうよ。」
「他のジャムが好きだった?」
「そうね。ブルーベリーとか桃のジャムとか。子どもっぽいわ。」
「ぼくはマーマレードが好きなんだ。甘くてせつなく苦い。」
「わたしもやっとわかってきた気がする。」
「かもしれないね。」