41 夏の恋人8=彼女がスープを作る理由 | J'adore

41 夏の恋人8=彼女がスープを作る理由

furenti

もう暗くなった海辺を一人でドライブする。


今はすでに静かになった波の音と潮の香りと「tahiti80」のフランス語なまりの英語の曲。


エアコンをつけていない車の中の中途半端な暑さにぴったりだと思う。


会った後に寂しさが残る、そんな時間は不必要なことはわかっている。


別れる前にミネラルウォーターを飲んだ。


生ぬるい、その温度に無性に腹が立った。


高見にもイライラしていた。


もう昔のように、彼の突飛な行動にドキドキしたりときめいたりできなくなっている。


「将来の事なんか考え始めたら、恋は終わりよ。」


自分が誰かに言ったっけ?


その通りよ、恋は終わりね。


カオリはスーパーによって、買い物をする。


たまねぎ、小さめのもの。


ベーコン、にんじん、じゃがいも、しめじ。


そして飾り、いえいえポイントに香菜。


暑い夏なのに、スープを飲みたくなった。


材料を大きめに刻んで、まずは玉ねぎから炒める。


ゴールドの色になるまで弱火でゆっくりと炒める。


ベーコンもよく炒めて、他の具材も炒める。


ブーケガルニを入れて、チキンブイヨンと共に水を入れて煮込んだ。


その間もアクを丁寧に取る。


鍋のそばを離れずに、一心不乱でアクをとった。


ダメな恋は、このアクのように捨てなくてはいけない。


カオリはいつも、恋の終わりにこうやってケジメをつける決心をする。


スープがきれいに透明になった頃、たいがいなぜだか心がすっきりとする。


澄み切ったスープは金色をしている。


いい香がしてきた。


そろそろいいかなと思った頃、香菜を刻む。


バンコクのむし暑い夜をマンゴスチンの香と共に思い出す。


スープを大き目の白い皿にたっぷりと注ぎ、香菜をたっぷりとふりかけた。


「完了。」


もう高見との恋も完了。


このスープと共にカオリの記憶の中に溶け込んでしまう。


「いい味だったわ。」


思い出になってしまう。