40 夏の恋人7=心に降る雨
梅雨の終わりを告げる雷を、一色と二人で聞いていた。
カオリの白い胸の上で一色は安らかな寝息を立てている。
彼の右手とカオリの左手はしっかりとつながれている。
一色の男にしては長い睫毛をみつめる。
それにしても・・・・。
カオリは彼の気持ちがわからない。
そして、自分のパートナーとして求めていたのは彼ではないこともわかってきた。
彼はまるで漣のように、近づくとササーッと波間に遠く姿を消そうとする。
もう少しで届きそうで、たぶん、いえ絶対にカオリの気持ちは届かない。
『好きだよ 』、という言葉がこんなに悲しく聞こえたこともなかった気がする。
一色がつないでいる右手を離して、窓に向かって寝返りを打った。
彼の日に焼けていない白い細い背中をみつめていると、涙が出てくる。
彼にはわたしを託せない・・・・・・・?
まだ、雷は遠くで鳴り続けている。
窓の外に見える海は、白い波飛沫を高く上げていた。
沖にたたずむ石ノ上で一人で取り残されているように感じた。
実際、カオリは一人でベッドの上に存在していた。
一色も一人で存在している。
二人はかすかにリンクしかけているが、現実にはまじ合っていない関係?
ベッドから起き上がり、雨の音を聞きながらシャワーを浴びる。
雨はやみそうにない。
バスルームのブラインドを上げて、雨をみつめた。
ガラスをすべり落ちる雨滴を右の人差し指でたどった。
突然雷が鳴って、不安そうなカオリの表情がガラスに映る。
ダメ・・・・・。
夏の終わりは、恋の幻の終わりを告げる。
今バスルームで少し泣いてみようと思った。
一人でカオリは少しだけ泣いた。