夏の恋人
白いワンピースでたたずむ女(ひと)をみつめていた。
カフェでのひととき。
真夏に近い7月の午後。
日差しは強く、影もない。
誰かと待ち合わせだろうか?
彼女の服は、はりのある素材でしつらえてあり、襟元が大きく開きデコルテの美しさを強調したデザインだ。
少し大きめのサングラスと長い髪が品のいいエロスをうまく演出している。
強い日差しの中でも、日焼けはしないのよとでも言うような白い肌がまぶしい。
背筋を伸ばして、ある方向をみつめている。
彼女は時計も見ないし、携帯も見ない。
どんな素敵な男性が現れるのだろうか?
どんな恋のシーンが始まるのだろうか?
自分のことはそっちのけで、彼女に見とれていた。
彼女を自分の恋人に置き換える。
僕は彼女をこんな真夏の太陽の下で待たせたりはしないだろう。
彼女に「待つ女」は似合わないから。
エアコンのよく効いた車で迎えに行き、今日みたいな日なら白ワインのよく冷えたのでも飲みたい。
そして美術館にでも行って、マチスでも見るかな?
マチスの赤を彼女は好きそうだ。
彼女の待ち人が来た。
ずいぶん年下のような、気だるい表情の若い男。
洋服にしわが目立つ。
彼女には似合わない?
男は彼女に会っても大してうれしい表情もしないで、無言で二人は歩き始めていた。
僕ならば、君と会ったときは思いっきり微笑むよ。
君の白いワンピースをほめたいよ。
彼女は笑っていなかった。
彼女の夏の恋は終わりに近づいているのを知っているのかもしれない。