31 I Wish Your Love 5
ルノーサンク、思い出の車。
彼とわたしが愛した車。
残念ながら、すでに1992年に生産は終わっていたからユーズドで探すしかなかった。
それでも、いろんな車のカタログを見た後で
「やっぱり、サンクのヒップラインがいい!」
徳永が言った。
つんと上向きにヒップアップしたようなキュートな後姿に、アユミも惹かれていた。
ちょうどインターネットで検索した中古車の、このネービーブルーの色も気に入った。
赤で内装が革張りのバカラも気になったけど、シンプルなこの車は内装もカジュアルなほうがフレンチっぽいと思ったから。
パワーウィンドーの下がり方も妖しいし、冷房はあまり効かない。
ちょっと無理するとエンジンがしんどいよ~と訴える。
アユミは、ルノーのご機嫌を取るためにエアコンを使うのをなるべく控えている。
そしてCDでもMDでもなくカセットテープのデッキしかないが、それさえも使うことをためらう。
というか、エンジンの音を聞きながら、ルノーと会話する方が楽しいのだ。
快適に走る音を聞くと、なんだかラッキーなような気がする。
「まるで、この娘(ルノーサンク)はペットみたいね。」
「そうさ、その通り。ペットというか子どもというか、そんなものだ。」
「かわいいわ。」
「君にはとてもよく似合っているよ。」
徳永は満足そうに笑っていた。
サンクがご機嫌だった頃、二人は一番幸せだった。