30 I Wish Your Love 4
「疲れている?」
店に入ってきたアユミを見て、まず徳永が聞く。
「わかる?なぜだかルノーも調子悪いの。ルノーがご機嫌ななめだから、わたしもそうなのかしら?」
ちょっと無理して笑って見せた。
少し無理している。
仕事にも恋愛にも人生にも、ちょっと無理している。
自分に厳しすぎるのだ、と徳永に言われたことを思い出した。
完璧さを追及すると、果てしなく条件は厳しくなる。
余裕のない女は輝きも失う。
今、ギリギリかな?
徳永は何も言わずに隣に座ったアユミの右手を握り締めた。
「コロナビールでも飲む?ルノーは僕が運転するよ。たまには、あの娘の機嫌を取らなくては。」
「あなたは彼女のお気に入りだものね。上手に操るわ。」
アユミは彼にキーを渡した。
赤いハイビスカス柄のアロハシャツに薄いオレンジのチノパンツを合わせて白いローファーの徳永は
日本人ではないような雰囲気をかもし出している。
もちろん一足お先に日焼けした腕は、夏を満喫した余裕が漂う。
「コロナにはライムを絞って冷たいうちに一気に飲むほうがうまいよ。」
目の前の穏やかな夕暮れの瀬戸内海を望みながら、徳永の言うとおりにコロナを思い切って飲む。
快い冷たさと酸味が、硬くなっていた心を柔らかくしていく。
「なぜコロナなの?」
「君がそうやって野生的に飲むところを見てみたかったから。なんかセクシーだよ。」
そうかもしれない。
気取ってワイングラスを傾けるのもいいけど、こんな気持ちのよい風の吹く夜はビールも少しいい感じ。
「この後どうする?」
「ドライブして、それから・・・・・。」
「二人っきりになる?そして一つになる?」
「イジワルね。今夜はNOとは言えない。」
酔ってはいない。
彼から、そう言われることを望んでいる自分を確信している。
「たまには君から誘ってほしいな。」
少しすねたように徳永が言う。
「そんなこと言わないわたしだから、好きなのでしょ?」
「そうかもしれないね。大好きだから。」
徳永は大好きというフレーズに力を込める。
ペスカトーレが運ばれてきた。
ガーリックと唐辛子の香が食欲をそそる。
付け合せにはスティックサラダとサーモンのマリネのケッパーソースがけ。
徳永はペリエのライム入りをオーダーした。
ペリエの瓶の美しいグリーンがテーブルに並ぶ。
「いいコンビネーションね。」
アユミは充分に元気になっていた。