29 I Wish Your Love 3
徳永からプレゼントされて、ずっと愛用しているのがセントジェームスのボーダーシャツ。
はじめてみた時は、「なんなの。ただの縞縞のトレーナー」と思っていたのに、
身につけてみると、その硬かった生地がだんだんと柔らかくなり肌になじむことを感じた。
そしていつしか、ほとんど毎日のようにそのセントジェームスに袖を通す。
ボートネックの襟元が、華奢なアユミの白い首をより際立たせて美しく見せるし、
きれいな色の組み合わせのボーダーは何着あっても楽しい。
洗濯を続けるうちに、生地が薄くなってくるのがまた気持ちいい。
「このシャツのよさは、身につけてみるとわかるよ。」
そう言った彼の言葉は本当だった。
セントジェームスを愛用し始めたころ、車を買い換えた。
日本車には魅力を感じていなかったアユミに徳永はルノーサンクを奨めた。
もう生産されてはいなかったから、当然ユースドカーで探すことになる。
ちょうど近くの県で瑠璃色した5年おちのサンクがみつかった。
内装は爽やかなブルーで左ハンドルのオートマチック。
ヨーロッパの小さい車にはパワーステはついていなくて、ハンドルは重い。
それでも、一目だけで、この車に乗ろうと思った。
シートがよかった。
彼女の体に気持ちよく沿ってくれる。
インパネのシンプルさも気に入った。
そう、徳永は彼女のことをよく理解している。
不思議なくらい、徳永の奨めるものは彼女に似合っていた。
今日もこれからルノーに乗って、海辺のリストランテにペスカトーレを食べに行く。
もうすっかり夏の遅い太陽も沈んでいる。
ラジオのスイッチを消して、ルノーのエンジン音を確かめる。
ちょっとお疲れ気味な大きな音を立てているかな?
わたしと同じ。
彼に会えば元気になれるわよ。