26 PRISM4
ワインを2本も開けたら、もちろん車は置いていかなくてはいけない。
結局二人は代行運転に、二人が宿泊するホテルまでプジョーを連れて行ってもらった。
「ねえ、わたしたちは歩きましょう。」
カオリが突然提案した。
「いい風が吹いているわ。堀端を歩いて風に吹かれたい。」
カオリは桧垣の腕に自分の腕を絡めて、軽くもたれかかっている。
酔ってはいなかった。
今夜は甘えてみたい。
優しくしてほしい。
わたしをあなたに夢中にさせて。
信号が点滅に変わった。
レモンイエロー色の光が、瞬きをしている。
一瞬立ち止まった桧垣は、その光に照らされているカオリをみつめた。
「何?」
質問の答えは、桧垣のキス。
桧垣の体に押し付けられたカオリの胸の柔らかさが心地よい。
トラットリアで最後に食べたデザートの「洋ナシのブラマンシェ」を思い出した。
ブラマンシェにさじを入れたときに、スプーンの上で震えて口に入れると滑らかに溶けていった。
洋ナシの甘さも、爽やかで白ワインによく合った。
そして、そう、この女(ひと)はワインを飲むといい香りがする。
思わず桧垣はカオリの裸の胸を想像した。
「何を考えていたの?」
「またデザートを食べたくなった。」
「あなたは甘いもの、そんなに得意ではないはずでしょ?」
「違うよ。デザートは君の白い胸。」
「スプーンでは掬えないかも。」
「ラズベリーのソースでもかけて食べてやるさ。」
二人の泊まるホテルが見えてきた。
エビアンを自動販売機で買って、早く冷たいシーツの上で二人になりたいと桧垣も思っていた。