20 恋に落ちないで7
今、自分の隣でスティングを飲んでいる高見をもう一度ゆっくりみつめた。
30センチほどの距離が二人の間に横たわった距離。
これはこれで心地よい距離で、この境界を越すのは魅惑的だけれどタブー。
「二人でいても寂しい関係。一人でいれば、いつでも二人になれる。
だけど、どっちがいいのかしら?わたしは二人でいたいわ。」
「好きなんて気持ちは続かないから、結婚っていうのはダメな人間っていると思いますよ。
俺なんかは、たぶんダメなほうだと思う。それなのに寂しいから、誰かを隣に置きたくなってしまうからいけな
い。」
「わたしも、ダメなほうね。たまらなく一人でいたいときは、たとえどんなに好きな人でもそばにいてほしくな
い。そんなから、冷たいんだと思われる。」
「シトエさんは優しい人ですよ。情があるっていう感じで、好きですよ。」
「あ、その好きって冷たい感じだな~。」
「好きは好きですから。」
高見の「好き」という言葉がちょっとうれしい。
「今度は君が何か作って。」
「けっこうやりますよ。豚肉の紅茶煮なんかうまいです。」
「楽しみにしてる。」
二人は残りのスティングで乾杯をした。
「新聞配達の人が来るまでには、お家に帰れるわ。泊まってなんて言わないから。」
「わかってますよ。」
今夜は眠れそうにない。
なぜ、菊池のことなんか思い出したのだろう。
終わりが気に入らない恋は後を引くものなのかもしれない。