19 恋に落ちないで6
なぜだか、シトエの予感は当る。
当ってほしくない予感ほど、自分は予知能力があるのではないかと思うほど確実に当る。
シトエと菊池は初夏の新緑を眺めていた。
少し下のほうから聞こえる小さな滝だろうか?水の流れが爽やかに響く。
息を大きく吸い込むと、今の季節特有のクロロフィルが濃厚なような木々の息吹の馨がした。
二人は隣の県からの帰りだった。
昨夜はその県に浮かぶ島であったレゲェのライブを楽しんで、温泉に少し浸かり
帰りにはきれいではないが、地元の人でにぎわっているセルフ式のうどん屋で昼食をとった。
普段は小食のシトエが、この街のうどんは大好きでお代りをする。
揚げたての野菜やちくわの天麩羅まで食べるのが、菊池には面白く感じる。
おまけに今日はおみやげにと3食分もうどんを買った。
「おいしい?」
茹でたてのうどんに醤油をかけて、たまごを混ぜているシトエに菊池が聞く。
自分は大根おろしをたっぷりとねぎをたっぷり入れたものに、醤油をかけている。
「ここのは大好き。特に、このたまごかけはおいしい。」
そのうどんは滑らかで喉ごしがとてもよいのだ。
やっぱり今日も2杯、少なめではあるが食べてしまっていた。
その帰り道、インターチェンジで車を停めて、山の景色を二人で眺めている。
そのとき、なぜだか今日でこういう旅行をするのは最後になるのではないかと、シトエは感じていた。
山の空気を吸い込んだとき、そういう予感が走った。
シトエは菊池の左腕に自分の腕を絡める。
運転中に日に当っている菊池の左腕は熱い。
「ねえ、来月はどこに行こうか?」
「そうね。京都あたりがいい。」
そう答えながらも、たぶんこれで最後ではないかと確信し始めているシトエがいた。