J'adore

わたしのまわりのカワイイ女たち。

だけど、なぜだか「イイ恋」に恵まれない。

3人は、ある夏の海辺でそれぞれの好きなシーグラスを拾う。

シーグラスの輝きのような彼女たちの切ない、そして危い恋のシーン。

イイ恋ができたら、シーグラスは海に返そうと誓った。

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ロータスの香る夜には2

彼女は、ホテルの部屋に入ると、今まで身につけていたワンピースの背中のファスナーを勢いよく下ろした。


爽やかなストライプのワンピースとは違う、フランス製のオーバードゥーのマゼンダカラーのレースのセット。


白い肌に、艶っぽく映える。


ガーターベルトが、彼女の張りのあるヒップラインを引き立てる。


ハイヒールのサンダルを履いたままで、冷蔵庫を開けて、エビアンのボトルを取り出した。


窓際の椅子に腰掛けて、一気に飲み干す。


彼女は今夜の約束を思い出す。


「誘惑してね。」


ベッドの前のドレッサーで背中を写してみる。


肩甲骨からウエストにかけて、適度な筋肉が美しい。


小粒の真珠のネックレスが、部屋のスタンドの灯りで光った。


ダブルベッドの真ん中で、大の字になって天井を見上げてみた。


携帯の着信がなったけど、気がつかないふりをする。


3時からの時間は、彼とのもの。


あなたにだけ、わたしの時間をあげるから。



ロータスの香る夜には1

彼女は、一人でいる感覚に戻っていた。


薄いシフォンの白いカーテンが、微かな風で揺れている夏の午後。


向かい側のビルの窓が強い日差しを浴びて光っている。


ベッドから降りて、窓際のソファーに座って飲みかけの生ぬるいペリエを一口飲んでみた。


気の抜けた間抜けな味の炭酸は、水よりもキライだと少し腹が立った。


「どうしようかな」とつぶやいた。


バッグの中から、ロータスの香のボディバターの入った小さなケースを取り出して、裸の胸から首、腕へと塗る。


神秘的な甘い香に、水の中の白い蓮の花が、時間が経つとなまめかしいピンク色に変化していくのを思い出した。


ベッドでうつぶせに眠ったままの彼を残して、彼女の時間の計画を始めつつ、快いだるさを楽しんでいる。


「sexの後の肌の色って、きれいだよね」


今まで眠っていたかと思っていた彼が、寝たままで顔を彼女のほうに向けて言う。




二人は昨夜、ワインをしこたま飲んで、このホテルに帰ってきた。


美味しいジェノベーゼのパスタと、タコのマリネ、ビールの風味のチーズが、あまりにも幸せなマリアージュで、冷えた赤ワインに合っていた。


だから飲みすぎた。


シャワーだけ勢いよく浴びて、タオルで身体をふくのもそこそこに、倒れるように別々のベッドで二人は眠った。


朝、太陽が輝いているのを確認して、彼はとても彼女と交わりたくなる。


「朝から君がほしくなった。」


日に焼けた腕を彼女の腰に廻して、彼女の耳に唇を這わす。


長いまつげを閉じて、眠っているかのようだった彼女は、彼の唇がくすぐったくて笑う。


「お水が飲みたい」


彼女のリクエストに答えて、冷蔵庫からペリエのきれいなグリーン色のボトルを出して、彼女に渡す。


ゴクゴク飲む彼女の白い首の喉仏がなまめかしい何かを感じる。


「ねえ」


彼女がベッドで手を大きく広げて、彼に笑いかけた。


「僕を誘ってるの?」


「あなたを誘惑してるの」


「したい?」


「あなたが考えているのと同じことをしたい」


「そんないやらしいこと?」


「みだらなこと」


彼女は、彼の手を取って彼を自分の上に重ねた。


エアコンの風で冷えた彼の身体が心地よい。


「この手、大好き。」


小麦色を通り越して、チョコレート色に近くなった彼の手の乾いた感触を楽しむ。


彼の背中の筋肉の硬さが、柔らかい彼女の肌に沈んでいく。


「溶けそうなくらいに愛して」


彼女の蓮の花が、ゆっくりと開こうとしていた。





余韻

完璧なものよりも、少し危いほうが好きだ。

壊れそうな、息を殺してないと形を変えそうな瞬間。

思いがけない美しさに出会う。

その一瞬に出会うために、何回のため息をついただろうか。

ときめきの余韻に浸る。

あなたと出会えたこの偶然に浸る。

一瞬だからいい。

続かないから、好きと言えるのね。

ご無沙汰しています。

かなり長く更新お休みしています。


別に病気もしてないし、元気ないわけでもないです。


ただ、なんか素敵な風が吹いてきて、そっちのほうに惹きつけられているって感じかしら?


半年くらい前のイタイ恋も、すっかり自分の中で「過去」に変わりました。


今の自分が好きであるってことに気がつくと、やっぱり、そこは通らないといけないフェンスだったのかしらってね。


笑い話にしています、ほんと心から。


その代わりっていうと、ちょっと違うんだけど、素敵な友達が増えました。


彼ら、彼女らといると時間を忘れます。


そして、たぶん微笑んでいる自分がいる。


体中、暖かいオーラで満たされます。


そんなわけで、しばらく心が旅に出ています。


心がまた戻ってきたらblog再開しますね。


わがままですね。


でも、見てくださってる皆さんに「アリガトウ」

Rouge

今夜は急に電話があって、BFをお迎えに松山空港へ。
なんだか香港に5日ほど行ってて、1時間半後には松山に着くとのこと。
珍しく疲れてるっぽい声の後ろから空港のアナウンス。
「聞こえないよ」と電話口で彼が繰り返す。
今夜はボジョレーでも飲みながら、スタイリティックスのナンバーでも聞いてみようかと思ってたけど、かわいそうになって予定変更。夜の始まる空港へ。
出発ロビーから、もうすでに暗い空を見上げる。
18:45発東京行き。
もう十年以上行ってない、パリより遠い東京。
青いきれいなカートの女性の行き先はクリスマス前のパリ?

ふと原宿にあったオリンピアフードライナーを思った。
大き目のカートを引いて、外国の女性に混じり、ポップな外装の家庭用品を買ったっけ。そして1階のサンジェルマンでバゲットを買って千代田線に乗った。長い長い電車は龍のようにくねった。

そんなことを思っていると、関西空港からANA便到着のアナウンス。でっかいスーツケースの他に大きな袋を3つカートに乗せて、疲れた顔の彼が自動ドアから出てくる。
軽く手を上げる。
右の唇を少し上げて、微笑む。

「ごめん。無理言ったね。おわびに何食べる?」
そういいながら、おみやげの香水とスカーフ。ごめん、このピンクは似合わないわ。でも、このカオリは好きかも。
「肉」
「ステーキ?」
「いいね。」
二人並んで車に向かう頃、東京行きのJALが飛んだ。
「肉食べに行こう。」

彼は助手席から、わたしの膝をつねった。

肉以外に何か食べたいの?


「ずっと一人で仕事終わって、26階のラウンジで飲んでたんだ。周りはカップルばかりだよ。

香港は景気いいんだな。」

「そう。一人もいいでしょ。気楽でしょ?」

「確かに」


飛行機が飛び立つ音を聞きながら、環状線に入る。

「どのあたりのお店?」

「今夜は帰らないといけないの?」

「そういうモードじゃないから。」


「キスもだめ?」

「ダメ。rougeが取れるから。」

それはウソ。

今日のわたしはrougeなんてつけてない。

今夜のわたしは完璧に恋愛モードではないみたいだった。

あなたかもしれない


cafe1
夕日を見に行きませんか?


海に沈むまでの夕日と空のグラディエーションを楽しみながらコーヒーを飲みましょう。


今の季節なら夕日のショーが始まるのは5時。


だから、4時15分に待ち合わせしましょう。




その人からの誘いで、今こうして海の見える土手にあるcafeのテラスでコーヒーを飲んでいる。


小さなテラスから見える海をバックに若い女性が石段に腰掛けて、コーラを飲んでいる。


「今日の夕日は小さいね。赤い色も少ないな。」


彼が残念そうに言った。


「小さな夕日も秋らしくて控えめでしみじみしていい。赤のボリュームもgood。」


わたしは、ほんとにそう思っている。


あまりにもドラマチックで美しい夕日なんか二人で見てしまったら、物語のようにウソが散りばめられていそうで、消えそうで、


そんな出会いなんか信じられないから。


「また来たらいいんです。そうしたら違う夕日が見えるでしょ。」


彼の顔を見て、わたしは笑って言った。


夕日が消えて、深い紫の闇が周りを囲んでいること気にしないで、今までの人生を少しずつ語る彼の話を聞いている。


あなたの人生を知りたいとわたしが思っている。


こうやって話すあなたに会えたことは偶然ではないと信じ始めている。

ヒラク

「あなたはトーストに、何枚きりを選ぶ?」


彼女は突然、フライドポテトを食べている彼に聞く。


ビネガーと塩のほどよくかかったポテトをつまんだまま、彼は考えた。


「6枚切りだね。」


「よかった。」


彼女は瞳を輝かせて笑う。


「わたし安心したわ。


4枚切りが好きだ、なんて言われたらどうしようかと思ったの。


わたしは8枚切りのパンをかりかりに焼いて小麦色にして、


そのままなんにもつけないでかじるのが好き。


トーストはふわふわでないほうがいい。


だから、あなたは合格点。あなたとなら、たぶん合う。」


二人は今夜が初めてのデートらしいデートで、NYから来たというテナーサックスのバンドのLIVEを聞きに来た。


彼はグラフィックデザイナーで、今夜も急ぎの仕事で待ち合わせの時間に遅れた。


彼女は先にテーブルに座っていて、ジンライムを飲みながら演奏に浸っていた。


「どこにいても何をしても彼女だ。」


何かの映画の中で、恋愛をしている女性のシーンが彼女と重なる。


「こんばんは。」


彼女の優しいアルトの声が、彼には心地よい。


「合格だ。」


そのとき、彼は心の中でつぶやいていた。



だから、彼女から同じ言葉を聞くとはなあ。


彼女をみつめた。


「何かさっき笑ってたでしょ?気になる。」


「今度8枚切りのトーストを一緒に食べようか?」


「意味深ね。でも、トーストなら朝食べたい。」


二人の心の中で、恋がヒラク。


二人の恋のstoryは今からヒラク。

maja

「美しい人」


一色はカオリに触れながらつぶやいていた。


そう、彼女は強く美しい。


横たわる彼女の腰からウエストにかけたくびれたラインが淡い影となって彼の記憶に輝く。


一色はカオリとのひとときを思い出していた。


夏の午後、シードルの瓶をテーブルに10本ほど並べて


「ちっとも酔わないわね。」と言って、二人で笑った。


「酔うわけないさ。アルコール7%くらいだもんな。カオリさんには水だよ。」


それでも、dryのシードルをおいしそうに飲む彼女の笑顔がかわいかった。


ベランダのデッキチエアーに素足で腰掛けて、足をバタバタさせながら楽しそうに笑う。


そんなカオリを、本当は愛していた自分。


それなのに、なぜ別れた?


彼女には彼女の時間があると知ったとき、それを大切にしてあげたいと思ったから。


いや、それはきれいごとだろう。


彼女を取り巻く環境と人間と対等に付き合う自信がなかったんだ。


カオリが悲しそうな表情をするとき、解決する術を持たない自分がいた。


そんなとき、聞かないふり、見ないふりをしながら心は痛んでいた。


maja


今でもカオリは一色にとっては「美しい人」





夏草をかみしめながら

夏の山


通りすぎる雲を眺めていた。


雲はいつから、わたしをみつめているのだろう。


わたしのことを覚えてくれているだろうか。


ずっとずっと幼い頃、夏が永久に続けばいいと願った。


夕立に濡れて、玄関先で靴を脱いで、母の差し出すタオルで濡れた髪を拭いた。


せっけんの香、母の白粉の香。


みんな遠い昔。


それなのに、その香は今でも新鮮によみがえる。


雨の降る夏の日は、夏草の香がにおいたつ。


緑の勢いのある強い香が、わたしに勇気をくれた。


乾いた草の中に倒れこんで、通りすぎる夏の日を感じた。


永久に続くと思った夏のある一日は、二度と戻らない。


あの頃、汗をかいて帰った道を、今はもう走って通ることもない。


夏草の香に包まれることもない。





53 今は言えない。


指と指を絡ませて、指の付け根から指先までゆっくりと撫でられると不思議な安心感が満ちてくる。


たぶん、徳永の優しい気持ちが指先から自分の中に入ってくるのだろう。


大切にしてくれる人がいるということは女に余裕を与える。


仕事のときの緊張感から今は解き放たれていた。


「ねえ今、とってもいい表情だよ。

アユミは本当はとても女なんだって感じる。」


「あなたといるときは、いつも女でいたいと思ってるわ。」


「アユミはいい女だ。たぶん誰が見てもそう思うだろうけど、二人っきりのときに見せる柔らかい表情が一番女だね。」


運転中なので、前を向いたまま徳永は微笑んだ。


徳永はアユミと会っているときに、何度でも『好きだ』という言葉を使う。


まるで自分に言い聞かせているかのように、力強く言う。



「アユミはどうして僕のこと好きって言ってくれないの?」

と聞かれたことがあった。


好きだと相手に伝えることで、そんな気持ちが過去になってしまうような気がしてアユミはコワイのだ。


だから自分の心の中で大切に育んでいたい。


柔らかい布で包んで温めていたい。


下り坂になると空と海の境が曖昧にかすんでいるのが見える。


もう少ししたら夕立があるかもしれない。


一時間後には、いつものホテルについた。


荷物を置いてすぐに、友達のやっているライブハウスに出かけた。


ブラックライトに照らされた入り口を通って、ダンスフロアーの壁にしつらえられた椅子代わりのステンレスのバーにもたれかかった。


心地よいレゲェが流れている。


二人は、ライムのスライスを浮かべたラムを飲む。


徳永はグラスを持ってない左手でアユミの腰に手を回して引き寄せた。


「今夜はアユミに好きって言ってほしい。」


わかっているけど、好きという言葉はうまいタイミングで使えない。


今は言えない。


なぜか言えない。







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